
「ビジネスと人権」への対応
「ビジネスと人権」とは
企業活動により生み出される製品やサービスには、そのすべてにサプライチェーンがあります。たとえばメーカーについていうと、原材料の生産から、調達、製造・加工、製品の流通、販売、消費、廃棄・リサイクルに至るまでの一連の流れです。
「ビジネスと人権」とは、企業が自社内およびバリューチェーン/サプライチェーン活動が人権に与える影響を理解し、尊重し、適切に対応していくという考え方です。これは単なる倫理的な配慮にとどまらず、今やグローバルな企業経営における重要な要素のひとつとして認識されています。
きっかけとなったのは、2011年に国連が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」です。この原則は、「国家の保護義務」「企業の尊重責任」「救済へのアクセス」という3つの柱から構成されており、企業には自社の活動やバリューチェーン全体を通じて、人権に負の影響を及ぼさないよう努める責任があることが明示されています。
実際、企業活動が直接・間接的に関わる人権リスクは多岐にわたります。労働条件、ハラスメント、差別、児童労働、強制労働、プライバシーの侵害、地域住民の権利など、その影響はサプライチェーン全体に及びます。とくにグローバルに展開する企業にとっては、現地の労働環境や文化・法制度の違いを踏まえた対応が不可欠です。
こうした背景を受け、近年は政府や投資家からの情報開示要求が強まり、各国で人権デューデリジェンスを義務づける法制度の整備が進んでいます。日本でも「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定され、企業に対し、人権方針の策定、リスク評価、是正措置、開示などを求める動きが本格化しています。
人権を尊重する企業は、従業員のエンゲージメントや生産性の向上、顧客や取引先からの信頼の獲得、レピュテーションリスクの低減といった面でもメリットがあります。逆に、人権侵害が発覚した場合には、ブランドイメージの毀損や訴訟リスク、投資撤退など、深刻な経営リスクにつながる可能性があります。
いま企業に求められているのは、単に「人権を侵害しないこと」ではなく、より積極的に「人権を尊重し、健全な労働・社会環境をつくる主体となること」です。「ビジネスと人権」は、持続可能な社会の実現に向けた責任であると同時に、企業価値を高める重要な経営戦略でもあるのです。